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長崎家庭裁判所 昭和46年(少)1292号 決定 1971年8月16日

少年 T・T(昭二九・一・二七生)

主文

一  強姦保護事件(一二九二号)につき少年を長崎保護観察所の保護観察に付する。

二  ぐ犯保護事件(八三五号)につき少年を保護処分に付さない。

理由

(非行事実)

少年は、A(一八歳)、B(一七歳)、C(一八歳)、D(二一歳)と共謀のうえ、昭和四六年六月一〇日午後一一時ころ、島原市○○○○×××の○、○上○型方収納小屋二階のAの居室六畳の間において、たまたま単身来訪した○本○○子(一七歳)を認めるや、強いて同女を姦淫しようと企て、Aが同女をベッドの上に押し倒し、頬を一回殴打し、口をふさぎさらに全裸にさせるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、同女を姦淫し、ついでそれまでいつたん外に出ていた他の四名も同所に引き返し、B、少年、C、Dの順に反抗の気力をなくした同女を強いて姦淫したものである。

(適条)

刑法一七七条、六〇条

(処分理由)

一  強姦保護事件については少年の資質環境、ならびに非行性の程度等をあわせ考えると、少年を保護観察に付して、その非行性の防止を図るのが相当と認められる。

二  虞犯保護事件について考えてみるに、事案は、昭和四六年一月三〇日午後八時三〇分ころから、自宅六畳の間において少年の誕生祝と称して宴会をもち、男女の友九人とともに、ビール一八本を飲酒したというものである。たしかに、未成年者は喫煙とともに飲酒を禁じられており(未成年者飲酒禁止法一条一項)、往々にして、飲酒が、犯罪を誘発する例も見られる。しかしまた、飲酒そのものには処罰規定が存せず、一八、一九歳層にあつては、飲酒それ自体を目して罪悪視する風潮必ずしも強いとはいえないように思われる。また、大部分は犯罪と結びつくことなくすんでいるのが現実である。してみれば、飲酒それ自体のみでは少年法三条一項三号イないしニ所定の虞犯事由のいずれにも該当せず、少年に他のぐ犯事由に該当する行状がある場合にこれと併せて考慮されるべき虞犯事由であるにすぎないと解すべきである。

ところで本件の場合、未成年者のみが集まつて、大人顔負けの宴会をやつている。

しかも少年にあつては中学卒業直後、一五歳のときにホイルキャップの窃盗で長崎家庭裁判所において不処分となり、高校一年のときから喫煙に親しんでいる。また、Aの部屋に強姦事件の前記少年らと集まつて、花札をして遊んだり、ときにはビールを買つて来て飲んだこともあるという。さすれば、少年の本件事案は、明らかに、少年法三条一項三号ニまたはハの虞犯事由に該当するといえよう。しかし、また、本件は、親しい友達、Cらの呼びかけで行われた少年の誕生祝での出来事であり、しかも、ビール飲酒は、Cの提案で急拠決まつたものであること、少年は前記窃盗事件以後自重して父親の肉販売業を手伝う等比較的まじめな生活をしていたもので、このときもコップに一杯位しか飲んでいないこと、日ごろの行状が少年よりよいとは必ずしも言えずしかも前記強姦事件の共犯少年であるA、Cの両名は、何ら本虞犯事件については調べをうけて立件されていないこと等の事実が認めらる。

してみれば、少年には、前記の虞犯事由が存在するとはいえ、将来罪を犯す虞れ(虞犯性)までは認められないというべく(もつとも、その後、前記強姦事件が発生しているけれども、本件とは直接の関連はなく、また、原則として事件の処分に当つては、爾後の事件とは切り離して考えるべきである)、結局少年を、本件については保護処分に付することができないと言わざるを得ない。

三  よつて、強姦保護事件については少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を、虞犯保護事件については少年法二三条二項をそれぞれ適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 東条宏)

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